揚貨装置運転士とは?免許の取得方法や流れ、特別教育との違いを解説
揚貨装置運転士は、貨物船や漁船などの船舶に装備されているクレーンやデリックといった揚貨装置(荷物を揚げ下ろしするための装置)を安全に運転する上で必要とされる免許です。揚貨装置の運転には特別な知識・技術が不可欠であることからも揚貨装置運転士の免許を取得することが求められます。
揚貨装置運転士の免許を取得するためには、申し込みをはじめ学科試験や実技試験など所定の手順を踏む必要があります。また、揚貨装置の運転に関する資格に「揚貨装置運転特別教育」もありますが、揚貨装置運転士とは運転可能な装置の対象範囲が異なるため、目的に合わせて適切な免許・資格を取得することが大切です。
本記事では、揚貨装置運転士免許の取得方法や流れ、特別教育との違いについて詳しく解説します。揚貨装置運転士の免許取得を目指している方や、揚貨装置の取り扱いに興味がある方は、ぜひ参考にしてください。
目次
揚貨装置運転士とは
揚貨装置運転士とは、貨物船や漁船などの船舶に装備されているクレーンやデリックといった揚貨装置を操作するために必要な国家資格であり、特に制限荷重が5t以上の装置に適用されます。
揚貨装置は主として陸から船舶(あるいは船舶から陸)への貨物の積み替えを行う際に用いられるもので、安全に運転するには高度な技術と知識が求められます。
揚貨装置運転士免許は、労働安全衛生法に基づき取得が義務付けられている国家資格として位置づけられています。揚貨装置運転士免許を取得するためには所定の手順を踏むことが義務付けられており、取得後も法令や安全対策に関する継続的な学習が必要です。
揚貨装置とは
揚貨装置とは、貨物船や漁船などの船舶に搭載されているクレーンやデリックのことで、主に荷物の揚げ下ろしを行うために用いられるものです。同様の作業を行うクレーンやデリックであっても、港湾側(陸上)に設置されているものは揚貨装置には含まれません。船上に設置されているもののみが揚貨装置に分類されます。
船上で荷物を動かすための揚貨装置の運転には、陸上に設置されているクレーン・デリックとは異なる免許の取得が求められます。この理由には、船上での作業特有のリスクが関係しています。
陸上に設置されているクレーンやデリックは地面に固定されており、揺れが少なく安定して操作できます。一方で、海上の船上では、船の揺れによって設置面が不安定な状況に置かれます。そのため、船上でのクレーンやデリックの運転には、揺れに対応するための高度な技術・知識が欠かせません。
クレーンやデリックは重量やサイズの大きい荷物を扱うため、操作ミスが大事故に繋がる危険性があり、海上ではバランスを崩して船が転覆する可能性も生じます。こうしたリスクを考慮して、船上でのクレーンやデリックの操作には特別な免許が必要とされているのです。
つまり、揚貨装置運転士は、船の揺れに対処しながら安全にクレーンを操作できる技能を持っていることを証明する免許といえます。
なお、揚貨装置の運転に関する資格には、揚貨装置運転士免許のほかに「揚貨装置運転特別教育」もあります(詳しくは後述)。
陸上に設置されているクレーン・デリックの運転に関する免許・資格について詳しく知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。
クレーン・デリック運転士とは?種類や費用、合格率・難易度を解説
揚貨装置運転士免許の取得方法
本章では、揚貨装置運転士免許の取得方法として、学科および実技試験の概要や合格率、難易度、費用、試験場所など知っておくべき基本情報を順番に紹介していきます。
なお、揚貨装置運転士免許の取得に必要な学科・実技試験は18歳以上であれば申し込み可能で、その他に特別な受験資格はありません。
学科試験
揚貨装置運転士免許を取得するためには、学科試験を受けて合格する必要があります。
通常、学科試験の時間は約2時間30分(13:30~16:00)で、以下の内容で実施されます。
- 揚貨装置に関する知識:10問(30点)
- 関係法令:10問(20点)
- 原動機及び電気に関する知識:10問(20点)
- 揚貨装置の運転のために必要な力学に関する知識:10問(30点)
ここからは、参考までに「揚貨装置運転士免許」の学科試験で過去に出題(令和6年10月に掲載)された問題を3つピックアップして紹介します。
問題 | 揚貨装置に関する記述として、適切なものは次のうちどれか。
①デリック型式の揚貨装置のシングルデリックブームのガイレス荷役方式は、1本のトッピングリフトワイヤロープを使ってデリックブームを旋回させるものである。 ②ジブクレーン型式の揚貨装置には、ジブが1本のシングルタイプとジブが2本のダブルタイプがあり、操作が比較的簡単で作業性が良いが、旋回はいずれのタイプも180°が限度である。 ③1個の共通旋回台に2台のジブクレーンを搭載したダブルタイプの揚貨装置は、荷を斜めづりしたり、船体が左右に大きく傾斜しても、ジブが揺れずに使用できる特長がある。 ④走行式橋形クレーン型式の揚貨装置は、上甲板口の両側に走行レールを設けたもので、ハッチの適当な位置に移動することができる。 ⑤走行式橋形クレーン型式の揚貨装置は、荷役時には、クレーンガーダの先端部に設けられたデリックブームが船外に張り出す構造となっている。 |
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正解 | ④ |
問題 | つり具及びフックに関する記述として、適切なものは次のうちどれか。
①グリッパーは、長尺物の貨物を安定した状態でつるための補助つり具で、つり具の形状により、クラムシェル型及びポリップ型の種類があり、貨物の形状、寸法に応じて適合したものを用いる。 ②リフティングマグネットは、電磁石を応用したつり具で、金、銀、銅、アルミニウムなど、あらゆる金属を引きつけることができるので、スクラップなどの荷役に用いられる。 ③スプレッダは、貨物の荷重によって生じる把握力を利用して、直接貨物をつかんでつり上げるつり具で、貨物をつかむ部分の形状、寸法は、木材、箱、ベール梱包などの貨物に応じて有効となるように作られており、それぞれの荷姿に合わせたものを使用する。 ④カーゴフックには、片フックと両フックがあるが、片フックは40t程度以上の大荷重用に使用される。 ⑤電動油圧式のグラブバケットは、カーゴワイヤロープ又はカーゴフックにつり下げて使用するもので、グラブバケット自体に組み込まれた電動油圧ユニットによりバケットの開閉を行うようになっている。 |
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正解 | ⑤ |
問題 | 揚貨装具などに関する記述として、適切でないものは次のうちどれか。
①ロープ、チェーン、フックなどを接続するときに用いるシャックルのうち、D字形の形状のものを特にバウシャックルと呼ぶ。 ②マニラロープは、天然繊維のロープとしては最も多く使用され、日光に対して強く、雨、海水などに対して比較的耐水性がある。 ③ブロックは、1個又は2個以上のシーブを組み合わせた揚貨装具であり、外枠の材料により木製ブロック、鋼製ブロックなどに分けられる。 ④アイ及びアイプレートは、ロープ、チェーン、荷役ブロックなどを船体に取り付けるためにデッキ上などに設けられている金具で、垂直方向に引っ張る力には強いが、横や斜め上方向に倒すように引っ張る力に非常に弱い。 ⑤ホーンクリートは、ブームのトッピングリフトワイヤロープ、センターガイ、ガイロープなどの端末を結び付けるのに用いられ、デリックポストの下部に設けられている。 |
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正解 | ① |
参考:公益財団法人 安全衛生技術試験協会「公表試験問題|揚貨装置運転士免許試験」
実技試験
揚貨装置運転士免許を取得するためには、実技試験への合格も求められます。なお、教習所での実技教習を修了した場合、実技試験が免除されます(試験の免除について、詳しくは後述)。
揚貨装置運転士免許における実技試験の内容は、以下の通りです(実施時間は午前・午後に分けて受験票に記載)。
- 揚貨装置の運転
- 揚貨装置の運転のための合図
試験の免除について
揚貨装置運転士免許の学科試験と実技試験は、所定の条件を満たしている場合に一部または全部の科目の受験が免除されます。
以下に、試験の免除を受けられる条件と内容(科目)をまとめました。
免除の条件 | 免除試験(科目) |
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以下のいずれかの免許・資格を持っている場合
・クレーン・デリック(クレーン限定、床上運転式クレーン限定を含む) |
学科試験 ・原動機及び電気に関する知識 ・力学に関する知識実技試験 ・運転のための合図 |
揚貨装置運転実技教習を修了し、その修了した日から起算して1年以内の場合 | 実技試験 ・全部(学科試験のみの受験となる) |
揚貨装置の学科試験に合格し、その学科試験が行われた日から起算して1年以内の場合 | 学科試験 ・全部(実技試験のみの受験となる) |
以下のいずれかを満たしている場合
・床上操作式クレーン運転技能講習を修了している |
実技試験 ・運転のための合図 |
移動式クレーン運転士免許および玉掛け技能講習の詳細は、それぞれ以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。
移動式クレーン免許とは?取得の流れや費用、学科・実技試験の内容
玉掛け技能講習とは?内容や費用、合格率、特別教育との違いを解説
参考:公益財団法人 安全衛生技術試験協会「受験資格|揚貨装置運転士」
合格率と難易度
以下に、揚貨装置運転士免許の学科試験および実技試験の合格率をまとめました。
種別 | 実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|---|
学科 | 2023年 | 607人 | 422人 | 69.5% |
2022年 | 600人 | 457人 | 76.2% | |
2021年 | 459人 | 370人 | 80.6% | |
実技 | 2023年 | 324人 | 298人 | 92.0% |
2022年 | 336人 | 303人 | 90.2% | |
2021年 | 280人 | 255人 | 91.1% |
このうち、学科試験の難易度については参考書を使用したり、過去問を解いたりして対策しておかないと合格は難しいと考えられます。
実技試験については学科試験に比べて合格率が高いですが、自信がない場合には教習所で揚貨装置運転実技教習を受講して免除を受けるのも一つの選択肢だと言えます。
費用
揚貨装置運転士免許の試験を受ける際に必要な費用は、以下の通りです。
- 学科試験:8,800円
- 実技試験:14,000円
そのほか、揚貨装置運転実技教習を受講する場合は、別途費用が必要です。受講費用は教習機関やコース内容によって異なりますが、おおよその目安は100,000円〜150,000円です。詳細な金額については、受講を予定している教習機関の公式サイトや案内を確認してください。
試験場所
揚貨装置運転士免許の試験は、全国(北海道・宮城県・千葉県・東京都・愛知県・兵庫県・広島県・福岡県)の安全衛生技術センターにて実施されます。
試験の実施日程は地域ごとに異なるため、受験を希望する試験センターの公式サイトで事前に日程を確認してください。特に人気の日程は早期に定員が埋まる場合があるため、申し込み前に早めの確認を心がけましょう。
参考:公益財団法人 安全衛生技術試験協会「揚貨装置運転士免許試験日(令和6年4月~令和7年3月)」
揚貨装置運転士免許の取得の流れ
ここからは、揚貨装置運転士免許の試験を受ける際の大まかな流れを、以下の4つのステップに分けて取り上げます。
- 申し込み
- 学科試験
- 実技試験(実技教習修了者は免除)
- 免許申請
それぞれのステップごとに、行うべきことを中心に順番に詳しく紹介します。
①申し込み
揚貨装置運転士免許の試験申し込みは、各地域の安全衛生技術センターが窓口となっています。申請方法には、オンライン申請と書類を使う申請の2つがあり、自分に合った方法を選べます。
書面申請の場合は、必要な申請書類を準備し、指定のセンターへ提出します。提出方法は、「簡易書留で郵送する」もしくは「センター窓口に直接持参する」のいずれかを選べます。
書類提出後、通常10日以内に受験票が届きますので、試験日までに確認しておきましょう。
②学科試験
指定の試験日に学科試験を受験します。揚貨装置運転士免許の学科試験の合格条件は以下の通りです。
- 各科目で40%以上得点し、なおかつその合計が60%以上であること
学科試験に合格した場合、実技試験の受験票が送られます。不合格の場合は、結果が『免許試験結果通知書』に記載され、次回の試験に向けて準備を進めることが可能です。
③実技試験(実技教習修了者は免除)
学科試験に合格後、次に実技試験を受験します(実技教習を修了している場合は免除されるため「④免許申請」に進んでください)。
揚貨装置運転士免許の実技試験の合格基準は、以下の通り定められています。
- 減点の合計が40点以下であること
なお、学科試験に合格した後に実技試験を受けない場合(実技教習修了者)には、「免許試験結果通知書」(「学科試験 合格、実技試験未受験」と記載)で結果が通知されます。
④免許申請
学科試験と実技試験の両方に合格すると、「免許試験合格通知書」が届きます。
この通知書を受け取ったら、都道府県労働局や労働基準監督署、各センターなどで配布されている免許申請書に必要事項を記入し、免許試験合格通知書と必要な書類を添えて、労働局免許証発行センターに提出して免許申請を行います。
上記の申請手続きを行わない場合、揚貨装置運転士免許は発行されません。また、18歳未満の方には免許証が交付されないため、18歳を過ぎてから申請を行ってください。
参考:公益財団法人 安全衛生技術試験協会「受験申請から資格の取得まで」
公益財団法人 安全衛生技術試験協会「合格後の手続き」
揚貨装置運転特別教育との違い
揚貨装置の運転に関する資格には、揚貨装置運転士免許のほかに「揚貨装置運転特別教育」も挙げられます。揚貨装置運転特別教育は、揚貨装置(制限荷重5t未満)の運転に必要な免許です。
揚貨装置運転士免許の取得者は、制限荷重5t以上を含め、揚貨装置の運転が可能となります。これに対して、揚貨装置運転特別教育の修了者が運転できる揚貨装置は、制限荷重5t未満のものに限定されるのが特徴です。
揚貨装置運転特別教育は国家資格ではなく、比較的短期間で修了できる教育プログラムです。特別教育は労働安全衛生法に基づく「特別教育制度」として義務付けられており、現場での安全な作業を確保するために必要な基本的な知識と技術の習得を目的としています。以上の理由から、揚貨装置運転特別教育の修了者が運転できる揚貨装置には制限があるのです。
下表に、揚貨装置運転特別教育の概要をまとめました。
資格・教育の情報 | 内容 |
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費用 | 15,000円〜20,000円前後 |
日数 | 1日〜2日間 |
講習内容 | ・揚貨装置に関する知識:4時間 ・揚貨装置の運転のために必要な力学に関する知識:4時間 ・原動機及び電気に関する知識:2時間 ・関係法令:1時間 |
受講資格 | 18歳以上 |
申込先 | 社内、社外の教習機関(都道府県労働局長登録教習機関など) |
まとめ
本記事では、揚貨装置運転士免許の取得方法や特別教育との違いについて詳しく解説しました。揚貨装置の適切な運転は、作業者自身の安全だけでなく、現場全体の安全確保に直結するため、正しい知識と技術を習得することが不可欠です。 揚貨装置の運転に関する資格の取得は、現場の安全性を高めるだけでなく、運転者自身のスキル向上やキャリアアップにも繋がる重要なステップです。
この記事を参考に、しっかりと準備を進めてスムーズに揚貨装置運転士免許の取得を目指しましょう。免許の取得後は安全運転を心がけ、揚貨装置の運転に必要な知識と技術を活かして業務に取り組んでください