ラフタークレーンとは?サイズやメーカー、免許を解説
ラフタークレーンは、狭隘地や不整地でも高い機動性を発揮できる移動式クレーンの一種で、建設現場や土木工事、災害復旧など幅広い場面で活躍しています。特徴的なデザインと構造により、限られたスペースでも効率的に作業が可能であり、特に建物が密集している都市部では、ラフタークレーンの利用が多くなっています。
今回は、ラフタークレーンを初めて聞くという方にもわかりやすく、基本的な概要を解説します。ラフタークレーンのサイズや代表的なメーカー、操作・運転に必要な免許についても詳しくまとめました。
本記事を読んでラフタークレーンに関する理解を深め、適切なクレーンの選定や安全な取り扱いにお役立てください。
目次
ラフタークレーンとは?
ラフタークレーンとは、不整地や狭い場所での優れた走行性を持つ移動式クレーンのことです。別名、ラフテレーンクレーン(rough terrain crane)とも呼ばれています。ラフは「荒れた」、テレーンは「地形」を意味する英語です。
移動式クレーンの定義は、以下のとおりです。
- 荷を動力を用いてつり上げ、これを水平に運搬することを目的とする機械装置で、原動機を内蔵し、かつ、不特定の場所に移動させることができるもの
ラフタークレーンは、ホイールクレーンの一種でもあります。ホイールクレーンはタイヤ付の車軸で支えられた専用のフレームの上にクレーン装置を架装したものです。その中でも、ラフタークレーンは、一つの運転席で走行とクレーン操作を行えるのが特徴です。運転席からクレーンの移動操作と荷物の持ち上げ操作の両方を行えるため、別々の運転席や操作席を必要としません。移動とクレーン操作を一人で行うことができ、効率的です。
ラフタークレーンは、ステアリング機構(操向機構)にも特徴があります。大型タイヤを装備した全輪駆動式であるため、不整地や比較的軟弱な地盤でも走行ができます。また、4種類の操向方式を備えているため、狭隘地での機動性も優れています。
参考:一般社団法人 日本クレーン協会「移動式クレーンの知識」
ラフタークレーンのサイズと特徴
ラフタークレーンには、吊り上げ荷重を基準に、主に3種類のサイズが存在します。下表に、3つのサイズとそれぞれに見られる主な特徴をまとめました。
種類 | 吊り上げ荷重 | 主な特徴 |
---|---|---|
小型(ミニ)ラフター | 4.9t〜16t | 主に狭小地で、ビルの3〜4階程度までの高さの作業が求められる場合に活用される。 |
汎用ラフター | 20t〜70t | 小型ラフターよりもさらに高所での作業が求められる場合に活用される。
吊り上げ荷重に幅が広いため、作業で持ち上げる物の重量に合わせたサイズ選定が大切となる。 |
追加ウエイト付き ラフター |
80t以上 | 80t以上のラフタークレーンは、アウトリガーの他にウエイトを追加装備できる。
ウエイトが付くことで車体が安定し、重たい物を吊り上げても横転の心配がない。 |
下表に、ラフタークレーンのサイズをさらに細かく分類し、それぞれの特徴や適した作業などをまとめました。
吊り上げ 荷重 |
具体的な種類 | 主な特徴 | 特殊車両 通行許可 |
---|---|---|---|
10t未満 | 4.9、7、8tクレーン | コンパクトで、最も小回りが効きやすい。
市街地や狭小道路での作業に適している。 |
不要 |
10t以上 | 10、12、13、16tクレーン | ワンボックスカーが通行するような狭小道路も通行できる。
3〜4階の建物での作業が得意で、狭小地で一定の高さが求められる作業に適している。 |
|
20t以上 | 20、22、25tクレーン | 10t級よりもブームが長く、高所での作業が可能。
地上スペースの確保が難しい現場で、ある程度重たいものを高所まで吊る作業に適している。 |
必要 |
30t以上 | 30、35tクレーン | ユンボの吊り上げが可能。
20tのラフタークレーンと同じ形をしている機種が多く、様々な現場に対応できる。 ブームを伸ばした後、地上でジブ(移動式クレーンの上部旋回体の一端を支点とした腕)を自動伸縮できる。 |
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40t以上 | 40、45tクレーン | 70〜80t級と車体の長さが同じ機種が多いものの、吊り上げ荷重が少ないことから、それほど出回っていない。 | |
50t以上 | 50、51tクレーン | ||
60t以上 | 60、65tクレーン | 鉄骨、テトラポットなどの吊り上げが可能。
車体の幅は3m程度、長さは13m程度。 ビル15階程度の高さでの作業が可能。 |
|
70t以上 | 70tクレーン | 車体の幅が2m後半程度で60t級よりも細いが、車体の長さは60t級よりも1m程度長い。
上空でジブを自動で出せるほか、地上に障害物が多い場所でも作業しやすいのが特徴。 |
|
80t以上 | 80tクレーン | 車体の幅は3m程度。
ウエイトの取り付けが可能で、70t級よりも不整形地で安定した作業が行える。 |
|
100t 以上 |
100、145tクレーン | 【100tラフター】 70トン級と同じ車体が多く、特殊車両通行許可を取りやすい。ビル16階程度の高さで作業が可能。【145tラフター】 世界最大規模のラフタークレーンで、ビル20階程度の高さで作業が可能。主に港湾やプラントの構内などで使用されているが、公道の走行はできない。 |
吊り上げ荷重が20t以上のラフタークレーンが公道を通行する際には、特殊車両通行許可の取得が必要です。
特殊車両通行許可制度とは、あらかじめ道路管理者に対して車両諸元や通行経路などを指定した特殊車両通行許可申請を行い、許可を受けた範囲内での道路の通行が認められるようになる制度のことです。
ラフタークレーン以外にも、一定の大きさや重さを超える車両(特殊車両)の道路の通行については、特殊車両通行許可を得る必要があります。
ラフタークレーンのメーカーと機種
本章では、ラフタークレーンのメーカーとそれぞれの機種の一例をピックアップして紹介します。
- コベルコ建機
- タダノ
- 加藤製作所
なお、ラフタークレーンには様々な機種があり、ここで取り上げていないメーカー・機種も数多く存在します。ご自身・自社の用途に合わせて、適したラフタークレーンを選びましょう。
コベルコ建機
コベルコ建機は、油圧ショベル・移動式クレーンの開発、製造、販売ならびにサービスを手掛ける重機メーカーです。
ラフタークレーンの開発・製造にあたっては、都市の狭い現場でもスムーズに移動できるコンパクトなボディ、パワー、走行性能などに対してKOBELCOのホイール開発技術を投入しています。
下表に、コベルコ建機が提供している主なラフタークレーンの種類と特徴をまとめました。
製品名 | 型式 | 最大定格総荷重 | ブーム長さ |
---|---|---|---|
リンクス130 | RK130M-2 | 4.9t×5.0m | 5.5m~24.0m |
RK130-2 | 13t×1.5m | 5.5m~24.0m | |
RK250 | RK250-10 | 25t×3.5m | 9.35m~30.5m |
パンサー700 | RK700-3 | 70t×2.1m | 9.8m~44.0m |
タダノ
タダノは、建設用クレーン、車両積載型クレーン、高所作業車などを製造・販売するメーカーです。1955年に日本初の油圧式トラッククレーンを完成させて以来、クレーンメーカーとして実績を重ねています。
下表に、タダノが提供している主なラフタークレーンの種類と特徴をまとめました。
製品名 | 型式 | 最大定格総荷重 | ブーム長さ |
---|---|---|---|
エボルト | eGR-250N | 25t×3.5m | 9.35m~30.5m |
クレヴォG5シリーズ | GR-250N | 25t×3.5m | 9.35m~30.5m |
GR-160N | 16t×3.0m | 6.5m~28.0m | |
クレヴォG4シリーズ | GR-1000N | 100t×1.6m | 10.2m~48.0m |
GR-700N | 70t×2.1m | 9.8m~44.0m | |
GR-600N | 60t×1.8m | 10.3m~41.2m | |
GR-130NL/N | 13t×1.5m | 5.5m~24.0m | |
GR-130NL/N(2W) | 13t×1.5m | 5.3m~23.8m | |
GR-1450EX ※構内専用機 |
GR-1450EX | 145t×2.5m | 13.1m~61.0m |
加藤製作所
加藤製作所は、建設用クレーンや油圧ショベル等及びその他製品を製造・販売する総合建機メーカーです。重機の主力製品としては、ラフタークレーンのほか、トラッククレーン、油圧ショベルなども挙げられます。
下表に、加藤製作所が提供している主なラフタークレーンの種類と特徴をまとめました。
型式 | 最大定格総荷重 | ブーム長さ |
---|---|---|
MR-130RfⅡ /MR-130RfⅡM |
130RfⅡ:13t×1.7m 130RfⅡM:4.9t×4m |
5.3m~24m |
MR-200Rf | 20t×2.5m | 6.5m~28.0m |
MR-250Rf | 25t×2.8m | 6.7m~29.0m |
SR-250RfⅡ | 25t×3.5m | 9.35m~30.5m |
MR-350RfⅡ | 35t×2.6m | 7.5m~32.5m |
SL-500RfⅢ | 50t×3.0m | 10.1m~40.0m |
SL-600RfⅢ | 60t×1.8m | 10.1m~40.0m |
SL-750RfⅡ | 75t×2.3m | 10.0m~45.0m |
SL-850RfⅡ | 80t×2.2m | 10.0m~45.0m |
ラフタークレーンをはじめとする重機メーカーについて理解を深めたい場合は、以下の記事に詳しくまとめていますので、ぜひご覧ください。
重機メーカーの一覧【国内、海外別に30社】
参考:株式会社 加藤製作所「製品情報|ラフテレーンクレーンMR-130RfⅡ/MR-130RfⅡM」
ラフタークレーンの免許
ラフタークレーンを操作するためには、移動式クレーン運転士の資格取得が必要です。操作する移動式クレーンの吊り上げ荷重によって、必要な資格は以下の通り異なります。
吊り上げ荷重 | 必要な資格 |
---|---|
5t以上 | 移動式クレーン運転士免許 |
1t〜5t未満 | 小型移動式クレーン運転技能講習 |
1t未満 | 移動式クレーンの運転の業務に係る特別教育 |
ラフタークレーンの場合、最もコンパクトな機種の吊り上げ荷重が4.9tなので、基本的に「移動式クレーン運転士免許」もしくは「小型移動式クレーン運転技能講習」のいずれかの取得が求められます。
移動式クレーン運転士免許の概要は、下表の通りです。
資格・教育の情報 | 内容 |
---|---|
費用 | 130,000円〜160,000円前後 |
試験内容・日数 | 【学科(13:30~16:00、2時間30分)】
・移動式クレーンに関する知識:10問(30点) 【実技(時間は午前・午後に分けて受験票に記載)】 |
受験資格 | 18歳以上 |
申込先 | 公益財団法人安全衛生技術試験協会 各地の安全衛生技術センターなど |
参考HP | https://www.exam.or.jp/exmn/H_shikaku232.htm |
続いて、小型移動式クレーン運転技能講習の概要をまとめました。
資格・教育の情報 | 内容 |
---|---|
費用 | 25,000円〜50,000円前後 |
日数 | 通常20時間(学科13時間、実技7時間) |
受講資格 | 18歳以上 |
申込先 | 都道府県労働局長登録教習機関 |
参考HP | https://www.komatsu-kyoshujo.co.jp/KkjReservation/Subjects/CourseListSkillSmallCrane.aspx |
以上がラフタークレーンを操作するために必要な移動式クレーン運転士免許の概要です。以下の記事で、取得の流れや試験の内容など取得を検討している方に向けて移動式クレーン運転士免許について詳細にまとめています。ラフタークレーンを運転・操作する予定がある方はぜひご一読ください。
移動式クレーン免許とは?取得の流れや費用、学科・実技試験の内容
また、ラフタークレーンは大型特殊自動車に分類されるため、道路を走行するためには道路交通法にもとづく「大型特殊自動車免許」の取得が欠かせません。
以下に、大型特殊自動車免許の概要をまとめました。
資格・教育の情報 | 内容 |
---|---|
費用 | 教習所での取得:7~13万円前後 一発試験での取得:6,000円前後 |
日数 | 1日〜17日間程度 |
受講資格 | ・18歳以上 ・視力:両眼0.7以上、片眼0.3以上(片眼の視力が0.3に満たない場合は、他眼の視野が150度以上 ※眼鏡・コンタクト可) ・赤、青、黄の色彩の識別ができる ・10mの距離で90dBの警報器の音が聞こえる(補聴器で補われた聴力も含む) ・自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある四肢もしくは体幹の障害がない |
申込先 | 大型特殊自動車免許の取り扱いがある自動車教習所 |
大型特殊自動車免許を取得すれば、ラフタークレーンを含む大型特殊自動車を運転できるようになります。
ラフタークレーンをはじめ、建設機械・重機の操作・運転に必要な免許・資格について理解を深めたい場合は、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてお読みいただくことをおすすめします。
ラフタークレーンと他のクレーンの違い
前述の通り、ラフタークレーンは、移動式クレーンの一種として位置付けられています。本章では、他の移動式クレーンとラフタークレーンとの違いを順番に解説します。
オールテレーンクレーン
オールテレーンクレーンは、移動式クレーンの中でも、あらゆる路面に適応、つまり舗装道路から不整地までオールマイティに走行できるのが特徴です。
オールテレーンクレーンの最高時速は60〜70km程度であるのに対して、ラフタークレーンの最高時速は50km程度です。
また、ラフタークレーンの吊り上げ荷重は多くのケースで100t未満ですが、オールテレーンクレーンの吊り上げ荷重は100tを超えるケースが多く、パワーにも違いが見られます。
オールテレーンクレーンの詳細は以下の記事にまとめていますので、併せてご覧いただくことをおすすめします。
オールテレーンクレーンとは?ラフタークレーンとの違い、免許を解説
トラッククレーン
トラッククレーンは、自走して他の場所に移動できる移動式クレーンの一種です。
ラフタークレーンが未舗装の現場や狭い工事現場に強いのに対して、トラッククレーンは舗装道路や都市部での使用に適しています。
また、公道を走行するために必要な免許も異なっており、ラフタークレーンでは大型特殊免許が、トラッククレーンでは中型免許もしくは大型免許が求められるのが一般的です。
さらに、トラッククレーンは、運転席が走行用とクレーン用に2つに分かれているタイプが存在する点も大きな違いです。
トラッククレーンについて詳しく知りたい場合は、以下の記事をご覧ください。
トラッククレーンとは?種類や他の移動式クレーンとの違い、免許を解説
クローラークレーン
クローラークレーンは、クローラー(キャタピラ、無限軌道履帯)が付いた台車の上部にクレーン装置を備えた移動式クレーンです。
ラフタークレーンは、道路を自走できるため現場への移動が容易です。これに対して、クローラークレーンは、現場構内はクローラーによる自走が可能であるものの、公道への乗入れはできないため、トレーラーによる運搬が必要です。
また、クローラークレーンの場合、狭い場所での小回りが利きにくく、設置場所が限定される点も特徴です。
クローラークレーンの詳細は、以下の記事からご確認いただけます。
クローラークレーンとは?種類や4.9tクラスの需要、免許を解説
鉄道クレーン
鉄道クレーンは、線路交換や橋梁交換などの作業に使用される、線路上を移動する特殊なクレーンです。架線の下など、狭いスペースでの作業が求められる鉄道工事に特化しており、特に水平に物を吊り上げる能力に優れています。
ラフタークレーンが公道を走行できるのに対して、鉄道クレーンは線路上でのみ運用される点が特徴です。
浮きクレーン(フローティングクレーン)
浮きクレーンは、箱形の台船にクレーンを設置した移動式クレーンです。フローティングクレーンとも呼ばれています。
ラフタークレーンが陸上での作業に適しているのに対し、浮きクレーンは海上や港湾での作業に特化しており、水上での重作業に適した設計がされています。
クレーン機能付ドラグ・ショベル
クレーン機能付きドラグ・ショベルは、油圧ショベルにクレーン機能を追加した移動式クレーンです。動力は油圧式で、油圧シリンダーや油圧モーターを駆動させてクレーンを操作します。
大きな特徴として、クレーンモードとショベルモードを切り替えられる点が挙げられます。1台で移動式クレーンと油圧ショベルの機能を兼ね備えており、ラフタークレーンにはない柔軟性を持っています。
まとめ
ラフタークレーンは、高い機動性と安定性から、様々な現場で重宝される移動式クレーンです。特に狭隘地や不整地での作業において、その真価を発揮します。
ラフタークレーンの選定や使用にあたっては、現場の条件や作業内容に合わせて最適なモデルを選ぶことが重要です。また、操作には専門的な知識と技術が必要であり、適切な免許を取得した上で、安全に運用することが求められます。
本記事の情報を参考に、適切なクレーン選定や安全な操作を心がけていただければ幸いです。