トラッククレーンとは?種類や他の移動式クレーンとの違い、免許を解説
トラッククレーンは、建設現場やインフラ整備、物流業界などで幅広く活躍する移動式クレーンの一種です。その名の通り、トラックの車体にクレーンを取り付けた重機で、現場まで自走できる機動性に大きな特徴があります。
本記事では、トラッククレーンの種類や他の移動式クレーンとの違い、運転や操作に必要な免許について解説します。トラッククレーンの基本から専門的な知識まで、わかりやすく説明していきますので、初心者の方でも安心して読み進めてください。
目次
トラッククレーンとは?
トラッククレーンとは、自走して他の場所に移動できる移動式クレーンの一種です。移動式クレーンは、「荷を動力を用いて吊り上げ、これを水平に運搬することを目的とする機械装置で、原動機を内蔵し、かつ、不特定の場所に移動させることができるもの」と定義されています。
トラッククレーンは、2つの運転席、シャシー、クレーンブーム、旋回部分などで構成されています。その中でも特徴的なのは、2つの運転室を備えているタイプがある点です。1つは道路の走行用で、旋回サークルやアウトリガー(転倒しないように車体から張り出して接地させる装置)が設けられています。もう1つはクレーン操作用の運転室です。
最近では、7段ブームを持つトラッククレーンが導入され、高所での作業がさらに可能になりました。
トラッククレーンは機動性や走行性に優れており、高所への資材の荷上げ・荷下ろしや、柱の組み立て、重量物の輸送など、幅広い用途で活用されています。工事現場や建設現場など多種多様なシーンで使用されており、公道でもその姿を見ることが多いです。
その汎用性の高さから、トラッククレーンは「汎用クレーン」と呼ばれることがあります。
トラッククレーンの種類
トラッククレーンは、さらに以下の3種類に分けられます。
- トラッククレーン
- 積載形トラッククレーン
- レッカー形トラッククレーン
それぞれの概要・特徴を順番に解説します。
トラッククレーン
トラッククレーンは、専用のクレーン用キャリヤに旋回サークルやアウトリガーなどを装備し、その上にクレーン装置(上部旋回体)を架装したものです。路上走行用の運転室とクレーン操作用の運転室は、それぞれ別に設けられています。
クレーン装置の動力伝達方式には、油圧式と機械式があります。油圧式は、原動機により油圧ポンプを駆動し、その油圧によって油圧モータまたは油圧シリンダを作動させてクレーン装置の作動を行うものです。
一方で、機械式は、原動機の動力をチェーン、歯車により伝達し、クラッチの接続や切り替えによってクレーン装置の作動を行うものを指します。つり上げ荷重が5トン未満の移動式クレーンは、ほとんどが油圧式です。
クレーン作業用(巻上げ、巻下げ、ジブの起伏、伸縮および旋回)の原動機は、大型機種もしくは動力伝達が機械機構の機械式については、走行用とクレーン作業用原動機が別々に設けられています。
これに対して、クレーン作業の動力伝達が油圧機構の油圧式については、走行用原動機からP.T.O(エンジンの回転力を油圧に変えることで様々な動力を生み出す装置)を介して油圧装置によってクレーン装置を作動するのが特徴です。
トラッククレーンは機動性や操作性に富んでいることから、小型機種から大型機種まで幅広く使用されています。
積載形トラッククレーン
積載形トラッククレーンは、トラックの荷台と運転室の間に小型のクレーン装置を搭載したものです。クレーン操作は車両の側方で行う構造になっていますが、近年は安全面を考慮してリモコン式・ラジコン式などでクレーン操作を行うものもあります。
クレーンの動作は、走行用エンジンからPTO(パワーテイクオフ)を介して油圧システムによって行われます。また、この形式は積卸用のクレーン装置と貨物積載用荷台を備えているのも特徴で、つり上げ荷重が3トン未満のモデルが多く見られます。ジブの形には、ストレートジブと屈曲式ジブの2種類があります。
レッカー形トラッククレーン
レッカー形トラッククレーンは、トラックのシャシにサブフレームで補強してアウトリガーを備え、クレーン装置を架装したものです。一般的に、交通事故車、故障車をはじめとする救難作業や建屋内の機械設備といった据付工事などに使用されています。
ジブの長さは通常10mほどで、シャシの後部に事故車けん引用のピントルフックやウインチなどが装備されているのが特徴です。
参考:一般社団法人 日本クレーン協会「移動式クレーンの知識」
一般社団法人 日本クレーン協会「小型移動式クレーンの知識」
トラッククレーンと他の移動式クレーンの違い
前述の通り、トラッククレーンは、移動式クレーンの一種として位置付けられています。本章では、他の移動式クレーンの特徴とトラッククレーンとの違いを順番に解説します。
ユニック車
ユニック車とは、クレーンが架装されたトラックの通称です。つまり、呼び方が違うだけで、ユニック車もトラッククレーンの一種です。
ユニック車は、主に小型・中型の貨物の運搬や積み下ろしを目的としているのが特徴です。ユニック車の詳細は、以下の記事にまとめています。
ユニック車とは?種類や2t・4tのサイズ、資格・免許、選び方
ラフタークレーン
ラフタークレーンとは、不整地や狭い場所での走行性に優れている移動式クレーンのことです。別名、ラフテレーンクレーンとも呼ばれています。
トラッククレーンが舗装道路や都市部での使用に適しているのに対し、ラフタークレーンは未舗装の現場や狭い工事現場に強いです。また、運転席が一つだけとなっており、そこで走行とクレーン操作が行える仕様が特徴です。
公道を走行するために必要な免許も異なっており、一般的にトラッククレーンでは中型免許もしくは大型免許が、ラフタークレーンでは大型特殊免許がそれぞれ求められます。
ラフタークレーンについて、以下の記事で詳細に解説しています。トラッククレーンとの違いをしっかりと理解するために併せてお読みいただけますと幸いです。
オールテレーンクレーン
オールテレーンクレーンとは、あらゆる路面に適応したクレーン、つまり舗装道路から不整地までオールマイティに走行できる移動式クレーンのことです。
トラッククレーンよりも広範な地形での対応力があり、都市部から荒地までカバーできますが、その分コストも高めです。
また、公道を走行するために必要な免許も違い、ラフタークレーンと同じ大型特殊免許が求められます。
オールテレーンクレーンの詳細は以下の記事にまとめていますので、併せてご覧いただくことをおすすめします。
オールテレーンクレーンとは?ラフタークレーンとの違い、免許を解説
クローラークレーン
クローラークレーンとは、クローラー(キャタピラ、無限軌道履帯)がついた台車の上部にクレーン装置を備えた移動式クレーンのことです。主に土木・建設工事などで活躍しています。
トラッククレーンは、道路を自走できるため現場への移動が容易です。これに対して、クローラークレーンは、大きな吊り上げ能力を持つ一方で、他の場所への移動の際はトレーラーによる運搬が必要です。また、クローラークレーンは狭いエリアでの小回りが利きにくく、設置場所も限定されがちです。
しかしながら、安定性に優れているため、不整地での作業や重い物を持ち上げる作業には適しています。クローラークレーンに詳しくなれるよう以下の記事に情報をまとめていますので、併せてご覧ください。
クローラークレーンとは?種類や4.9tクラスの需要、免許を解説
鉄道クレーン
鉄道クレーンとは、線路交換や橋りょう交換に使用される線路上を走行する移動式クレーンのことです。架線の下の狭い空間で作業するため、 水平吊りの能力に優れているなど、鉄道工事に特化した優れた施工能力を有しています。
舗装道路での移動が得意なトラッククレーンに対して、鉄道クレーンは線路上のみで運用されるのが特徴です。
浮きクレーン(フローティングクレーン)
浮きクレーンとは、箱形の台船の上にクレーン装置を架装した移動式クレーンのことです。別名、フローティングクレーンとも呼ばれています。
トラッククレーンが陸上での作業に適している一方で、浮きクレーンは海上や港湾での使用に特化しているのが特徴です。
クレーン機能付ドラグ・ショベル
クレーン機能付ドラグ・ショベルとは、油圧ショベルにクレーン機能を備えた移動式クレーンのことです。動力伝達装置は油圧式で、油圧シリンダや油圧モータを動かしてクレーンを作動させます。
また、クレーン/ショベルモードの切り替えとフックのセットアップによって、1台の重機で移動式クレーンと油圧ショベルの使い分けができる点が、トラッククレーンには見られない大きな特徴です。
トラッククレーンの免許
トラッククレーンを操作するためには、移動式クレーン運転士の資格取得が必要です。操作するトラッククレーンのつり上げ荷重によって、必要な資格は以下の通り異なります。
吊り上げ荷重 | 必要な資格 |
---|---|
5t以上 | 移動式クレーン運転士免許 |
1t以上5t未満 | 小型移動式クレーン運転技能講習 |
1t未満 | 移動式クレーンの運転の業務に係る特別教育 |
移動式クレーン運転士免許の概要は、下表の通りです。
資格・教育の情報 | 内容 |
---|---|
費用 | 130,000円〜160,000円前後 |
試験内容・日数 | 【学科(13:30~16:00、2時間30分)】
・移動式クレーンに関する知識:10問(30点) 【実技(時間は午前・午後に分けて受験票に記載)】 |
受験資格 | 18歳以上 |
申込先 | 公益財団法人安全衛生技術試験協会、各地の安全衛生技術センターなど |
参考HP | https://www.exam.or.jp/exmn/H_shikaku232.htm |
続いて、小型移動式クレーン運転技能講習の概要をまとめました。
資格・教育の情報 | 内容 |
---|---|
費用 | 25,000円〜50,000円前後 |
日数 | 通常20時間(学科13時間、実技7時間) |
受講資格 | 18歳以上 |
申込先 | 都道府県労働局長登録教習機関 |
参考HP | https://www.komatsu-kyoshujo.co.jp/KkjReservation/Subjects/CourseListSkillSmallCrane.aspx |
最後に、移動式クレーンの運転の業務に係る特別教育の概要を示します。
資格・教育の情報 | 内容 |
---|---|
費用 | 15,000円〜20,000円前後 |
日数 | 【学科】 移動式クレーンに関する知識:3時間 原動機及び電気に関する知識:3時間 運転のために必要な力学に関する知識:2時間 関係法令:1時間【実技】 移動式クレーンの運転:3時間 移動式クレーンの運転のための合図:1時間 |
受講資格 | 18歳以上 |
申込先 | 社内、社外の教習機関(都道府県労働局長登録教習機関など) |
参考HP | https://www.komatsu-kyoshujo.co.jp/KkjReservation/Subjects/special/CourseDetailSpecialMobileCrane.aspx |
移動式クレーン運転士免許の概要は以上です。移動式クレーン運転士免許の詳細については、以下の記事でまとめています。トラッククレーンの運転・操作に携わる予定の方はぜひご一読ください。
移動式クレーン免許とは?取得の流れや費用、学科・実技試験の内容
なお、ここまでに取り上げた資格は、あくまでもトラッククレーンの操作に必要とされるものです。公道でトラッククレーンを走行させるためには、別途「運転免許」が求められます。
公道でのトラッククレーンの走行に求められる運転免許は、運転するトラッククレーンの車体の大きさなどで変動します。道路交通法では、トラッククレーンをはじめとする自動車の運転に必要な免許の種類が下表の通り定められています。
免許の種類 (車種) |
車両総重量 | 最大積載量 | 乗車定員 | 取得できる年齢 |
---|---|---|---|---|
大型免許 (大型自動車) |
11t以上 | 6.5t以上 | 30人以上 | 21歳~ |
中型免許 (中型自動車) |
7.5t~11t未満 | 4.5t~6.5t未満 | 11人~30人未満 | 20歳~ |
準中型免許 (準中型自動車) |
3.5t~7.5t未満 | 2t~4.5t未満 | 11人未満 | 18歳~ |
普通免許 (普通自動車) |
3.5t未満 | 2t未満 | 11人未満 | 18歳~ |
まとめ
トラッククレーンは、優れた機動性や柔軟性を持ち、様々な現場で不可欠な存在となっています。特に、スペースが限られている作業現場や、頻繁に移動が求められる現場では、トラッククレーンの導入が有効です。
トラッククレーンを安全かつ効果的に運用するためには、正しい知識と技術が不可欠です。また、用途や現場の状況に応じて最適なタイプのクレーンを選定することが、作業効率と安全性の向上に直結します。今後、トラッククレーンの利用を検討している方や、すでに運用中の方にとって、本記事が参考となり、理解を深める一助となれば幸いです。